文様の群論(エピローグ)

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 先の17種の判定条件の表にある場合しか起こりえないということがまず問題ですが、次の補題に注意すれば、おおよその理由は理解できると思います。

補題 条件(1)、(2)を仮定するとき、G は

  1. 60度、90度、120度、180度以外の回転角の回転を含まない。
  2. 各鏡映軸に平行な平行移動を含む。したがって鏡映軸は必ずすべり鏡映軸でもある。
  3. 各鏡映軸、各すべり鏡映軸に垂直な平行移動を含む。
 文様群の理解のためには17種それぞれの文様に対し(1)鏡映軸(2)すべり鏡映軸(3)60度、90度、120度、180度、それぞれの回転角の回転の中心、を一度残らず書き込んでみることを勧めます。17種全部についてやるのはたいへんですが、1、2種についてやってみれば、意外なところにすべり鏡映軸や回転中心があることが判り、作業がおもしろくなってくるはずです。

 文様の繰り返しのしかたが17種類あることは、おそらく、太古以来文様関係の仕事をする人の中に気がつく人がいたと思われます。数学的な最初の証明がいつ、誰によるのかについては、いくつかの説があります。最も古いものは、1891年 Ergraf Stepanovic Fedorov による、というもののようです。それ以来、最発見を数回繰り返しているというのが真実のようです。

 上で (group) という言葉を説明抜きで使ってきました。掛け算の定義された集合が三つの公理、結合法則、単位要素の存在、逆要素の存在、を満たすときこれを群と呼びます。群は現代の数学において本質的な役割を果たす概念です。ここで説明した文様群の理論も群論の深さの一端を表わすもののように思われます。

 数学的な正確な証明が書いてある文献として、英語のものですが、次の本の Chapter II を勧めておきます。(この本のほかのチャプターも実におもしろい。)

Robert Bix; Topics in Geometry, Academic Press (1994)

日本語の文献には次があります。

深川 久;平面上の繰り返し模様の分類について−図形編−、
大阪高等学校数学教育会会誌、第37号、8−17(1996)

 文様群の理論の3次元空間版を考えることができることにお気づきの方も多いと思います。3次元空間の場合には対応する理論は物理学の結晶の構造の研究において重要です。そこで3次元版文様群は結晶群と呼ぶべきものでしょう。3次元の場合には上の条件(1)において「2方向」を「平面に含まれないような3方向」で置き換えるべきでしょう。この置き換えた条件と上と同じ条件(2)を満たす結晶群は230種に分類されることが判っています。この結果は1885年から1891年にかけてFedorov と Arthur Schoenflies により決定されました。この二人は初めは独立に研究していたのですが、一人では間違いをなくすのは不可能であることに気づき、情報を交換しあったようです。

 4次元の場合には4895種に分類されます。これは1974年に判ったことです。H. Brown、R. Buelow、J. Neubueser、H. Wondratscheck、H. Zassenhaus の5人によります。

 このページの制作に当たっては大阪大学理学部の難波誠氏による市民向け講演「文様の幾何学」(1995年日本数学会秋季総合分科会市民講演会、9月30日、仙台戦災復興記念館)、そして、中公新書554「美の幾何学」(伏見康治、安野光雅、中村義作共著)の強い影響を受けました。

参考:
http://www.clarku.edu/~djoyce/wallpaper/
http://neon.chem.ox.ac.uk/vrchemistry/sym/splash.htm
http://xahlee.org/Wallpaper_dir/c0_WallPaper.html
http://clowder.net/hop/17walppr/17walppr.html
http://www.oswego.edu/~baloglou/103/seventeen.html

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